妊娠を望み2年以上夫婦生活を営んでいても妊娠に恵まれない場合を不妊症と呼びます。避妊しなければ2年以内に約90%の方が妊娠しますから、約10%の 方が不妊症ということになります。一度も妊娠したことのない方を原発性不妊症、妊娠の既往があるもののその後妊娠しない方を続発性不妊症と呼びます。
結婚後しばらく避妊したいという方もいますが、私どもの実際の調査では結婚2年以内に約90%が妊娠し3年以内に分娩していますから、実際に長期避妊し ている方の割合は以外に少ないものと恩われます。女性は30歳を越えると毎年3.5%ずつ妊孕性が低下すると考えられています。また、結婚年齢が高くなる と不妊症の頻度が高くなります。
結婚後しばらく避妊したいという方もいますが、私どもの実際の調査では結婚2年以内に約90%が妊娠し3年以内に分娩していますから、実際に長期避妊し ている方の割合は以外に少ないものと恩われます。女性は30歳を越えると毎年3.5%ずつ妊孕性が低下すると考えられています。また、結婚年齢が高くなる と不妊症の頻度が高くなります。
不妊症は単一の原因ではなく、大きく分けても10余りの原因が考えられます。それらの中の一つあるいは複数が関与する疾患です。従って不妊症の治療は原因 によって異なります。例えば、腹痛の場合でも虫垂炎、胃潰瘍あるいは胆石などと原因がいろいろあるのと同じです。しかし、個々の方の不妊原因を適切に診断 することは必ずしも容易ではありません。また、妊娠成立の中で医師が実際に関わることができる部分は限られています。そこで、効果の明確でないまま習慣的 治療に期待することにもなりますが、このようなことはできるだけ排除しなければなりません。不妊の方がビタミン剤を飲んで妊娠したとかも、また栄養剤や食 事療法で妊娠したとか、漢方で妊娠したとか、いろいろな話を聞かされます。それらの科学的裏付けは乏しく、医療の中に取り入れることはできません。
不妊治療の難しさを要約すれば次のようになります。
不妊治療の難しさを要約すれば次のようになります。
- それぞれの不妊カップルに対し、全ての不妊原因を調べることは難しい。
- 不妊原因として複数の因子が関与していることが多く、その中のいくつかを是正したとしても全て正常になったとは言い切れない。
- 不妊原因の中で医師が治療できない部分がある。例えば卵の卵管への取込み、受精、胚(受精卵)の発育、胚の卵管への移送など男女の生殖機能は毎月一定とはかぎらない。
- たまたま射精から着床までのいろいろな因子が正常に働いたときにのみ妊娠する。所謂、偶然性の関与治療が効いたから妊娠したとは言い難い場合がある。
- それぞれの治療法の有効性を明確にすることは難しく、非科学的治療が入り込むこともある。
妊娠が成立するためには10余りの段階があり、それら全てが正常に働いて初めて妊娠します。女性の身体の中ではホルモンの調節を受け、複雑な現象がタイミ ング良く起り、排卵-受精-胚の移送-着床へと進みます。月経の始まる頃は直径5mmほどの卵胞は、脳下垂体(脳の下にぶらさがったようになっているホル モンを分泌する小さな臓器)から分泌される卵胞刺激ホルモン(FSH)の作用で、徐々に大きくなり、卵胞ホルモン(エストロゲン)の分泌が増します。この 多量に分泌された卵胞ホルモンが脳下垂体からの黄体化ホルモン(LH)放出を促し、これが卵胞破裂、すなわち排卵を起します。放出された卵子はラッパの様 に開いた卵管の口に吸い込まれ精子と融合します。これを受精と呼びます。また、黄体化ホルモンは排卵後に残存した卵胞の袋の部分の細胞(顆粒膜細胞と内莢 膜細胞)を刺激し、黄体細胞というものに変化させます。黄体からは卵胞ホルモンとともに多量の黄体ホルモンが分泌され、これが子宮内膜をビロードのように 変化させ、受精卵が着床し易いように準備をします。受精後の卵子は胚とよばれ、細胞分裂を繰返しながら卵管内を子宮方向に運ばれ、約一週間を経て着床しま す。これで初めて妊娠が成立します。
今述べた妊娠成立に必要な10余りの過程のどこかが障害されると妊娠が難しくなります。それぞれの過程は複雑な機序により微妙に調節されており、現象は同 じであってもその本体は様々です。不妊原因が推定されたとしても、実際に診断できなければ臨床的意義はありません。そこで病院の検査で診断可能な不妊原因 について順に説明します。
- 男性側の異常による不妊
妊娠するためには、まず動きの良い十分な数の精子が膣内に射精されなければなりません。精子が少なかったり、形の悪い精子が多かったり、また動きの悪い精子が多い場合は妊娠がしずらくなります。精子に原因がある場合を男性因子による不妊と呼び、不妊患者の約40%を占めます。 - 子宮頚管粘液の異常による不妊
排卵日頃の子宮の入口は頚管粘液と呼ばれる水様透明な液体で満たされていますが、その中をおたまじゃくしの様な精子が子宮腔の奥の方へと遊泳していきます。頚管粘液は単に精子の通り道の役目だけではありません。頚管粘液の性状が悪く精子が侵入できない不妊を頚管因子による不妊と呼び、不妊患者の約15%に見られます。 - 卵管の異常による不妊
卵管は子宮と卵巣を結ぶ管ですが、細い所は内径1mmほどしかなく感染などでよく閉鎖します。卵管の腹腔側は扇状に開いた形になっていますが、その周囲 に癒着などで変形していると、完全な閉鎖でなくとも卵子を捕捉できなくなり不妊の原因となります。これら卵管の閉鎖や狭窄あるいは周囲の癒着などに基ずく不妊を卵管因子による不妊と呼び、不妊患者の約35%を占めます。 - 排卵障害による不妊
卵胞発育の障害はいろいろな段階で起ります。重症の場合は、1mmにみたない小~中卵胞のままで成長が止まります。中等症の場合は5mm前後にまで成長 しますが、それ以上にはなりません。最も軽症なものは、排卵直前の大きさまで成長するものの卵胞破裂が起らない場合があります。卵胞の発育が起らないか、あるいは卵胞破裂が起らない場合を排卵因子による不妊症と呼び、不妊患者の15~20%を占めます。 - 卵子の捕捉障害による不妊
卵巣から飛び出した卵子は、ラッパの様な格好をした卵管采に捕捉され、卵管内へ取り込まれ、精子と出合い、受精し一つの細胞、すなわち受精卵になります。この卵管采の形が変形していたり、また捻れていては卵子は取り込まれません。これが原因で妊娠しないものが卵子の捕捉障害による不妊と呼ばれます。難治性不妊の約半数が卵子捕捉障害であることが最近の研究でわかりました。 - 受精障害による不妊
卵管の腹腔側に近い膨大部で精子と卵子が出合い受精しますが、これが正常に進行せず不妊になることがあります。精液所見が正常でも、これら一連の現象がうまくいかないものを受精障害による不妊と呼び、不妊患者の約4%を占めます。受精障害というものが不妊原因として問題になってきたのは体外受精-胚移植やGIFTの余剰卵による検査で、受精の有無が確認できるようになってからのことです。 - 着床障害による不妊:子宮の異常および黄体機能の異常
子宮に病変があると子宮内膜が損なわれ着床ができなくなります。これを子宮因子による不妊と呼び、不妊患者の約15%を占めます。その内訳は先天的な子宮の形態異常が約2%、後天的な子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮腔癒着症などが約13%を占めます。 - 黄体機能不全による着床障害
黄体の働きが悪く、十分にホルモンが分泌されない場合や子宮内膜がホルモンに反応しない場合を黄体機能不全による不妊と呼び、不妊患者の約10%に認められます。 - 子宮内膜症に伴う不妊
子宮内膜が正規の子宮内腔になく、骨盤の腹膜や卵巣の中に入り込んでいる場合があり、これらは子宮内膜症と呼ばれています。月経となっても組織の中に出血するため、月経痛が強く、また性交痛などを訴える方もいます。一般の方には5~10%の頻度に見られるのに対し、不妊の方では20~30%にみられ、不妊の原因になっているのではないかと考えられています。 - 免疫性不妊
女性の体内に精子と結び付いて、その運動性や受精能力を損なう抗体と呼ばれる物質があることがあります。また、卵子の膜と結び付いて卵子の発育を障害す る抗体があることもあります。また、男性の身体の中に精子と結び付いてその働きを障害することもあります。これら抗体が不妊に関与している場合を免疫性の不妊と呼び、不妊患者の5~10%に見られます。 - 機能性不妊、原因不明不妊
一般的不妊検査(精液検査、フーナーテスト、基礎体温、超音波検査および卵管疎通性検査など)で異常を認めない例が約10%存在し、これらを機能性不妊と呼びます。この中にはさらに詳しい検査をすると原因の分るものもあります。どのような検査をしても原因が突き止められないものを原因不明不妊と呼びます。
一般不妊治療の前に基本的な検査を順序立てて行う必要がありますが、1年以上も治療を受けていながら未だ受けていない人もいます。検査の必要性や方法を充 分理解し検査を受けてください。不妊治療は原因を見きわめないで、適当な治療を受けていたのでは良い結果は得られません。まず、大まかな原因を確かめるた めに、次の6大検査が必要です。
不妊症の6大基本検査
不妊症の6大基本検査
- 基礎体温の測定
- 精液検査(精子の数、運動率、形態など)
- 排卵日頃に行う頚管粘液検査
- 排卵日頃の早朝に性交し、病院で頚管粘液中の精子数を調べるフーナーテスト
- 子宮の形と卵管の通過性を調べる子宮卵管造影というレントゲン検査
- 卵胞の発育、子宮や卵巣の状態などをモニターに映し出す経腟超音波診断
不妊症の基本検査である程度の不妊原因はわかります。それら基本検査で異常を認められたり、不妊治療期間が長期に及んだ場合は、次の2次検査を受ける必要 があります。これらの検査は必要性に応じて行うべきで、不妊だからといって全ての方が受ける必要はありません。
不妊症の2次検査
- 性腺刺激ホルモンと卵巣性ホルモンの検査
- 男性ホルモンの検査
- 乳線刺激ホルモン(プロラクチン)
腹腔鏡検査 - 精巣生検(精巣組織の一部を採取する検査)
- 精路・精嚢造影(精巣から尿道までの精子の通り道の検査)
- 精子侵入検査(sperm penetration assay、SPA)
抗精子抗体、精子不動化抗体検査
来院した不妊のカップルに、これから行う不妊検査、治療、今後の見通しを含めたカウンセリングを行います。不妊治療はその症状、検査所見に応じ、適切な治 療をすべきもので一様ではありません。どんな不妊症にも効くなどというものはありません。専門医は検査の意義を十分に説明し、不妊統計を考慮に入れながら 治療の見通しを丁寧に説明する必要があります。そして、不安を取り除く精神的サポートもすることが重要です。
十分な説明をして同意が得られたら、まず6大基本検査を行います。
検査結果にもよりますが、最初の6カ月は基礎体温の測定、頚管粘液検査、経腟超音波診断、時には、LHチェック(排卵日を尿中のLHというホルモンの変化で予測する検査で、自宅で行うことも可能)で排卵日を予測し、適切な性交を指導し妊娠を促します。
次の6カ月でクロミフェン療法、ドパミンアゴニスト療法、HCG療法(排卵直前に投与し排卵を促したり、あるいは排卵後に投与し黄体を刺激する治療)などを行います。
この方法でも妊娠しない場合、さらに半年から1年かけて排卵誘発剤であるHMG-HCG療法を施行し、同時に適宜、人工授精(子宮内へ直接精子を注入する)を施行します。
このような治療で妊娠に至らない場合は、次の手段としてGIFTあるいは体外受精を施行します。このような手順は欧米でも採用されています。もちろん各 検査の段階で異常が認められた場合には、それぞれの不妊原因となり得る異常を是正し、個別的な治療をするのは当然のことです。例えば、卵管通過障害に対す る卵管形成術、子宮筋腫、子宮内膜症に対する手術や薬物療法などです。
十分な説明をして同意が得られたら、まず6大基本検査を行います。
検査結果にもよりますが、最初の6カ月は基礎体温の測定、頚管粘液検査、経腟超音波診断、時には、LHチェック(排卵日を尿中のLHというホルモンの変化で予測する検査で、自宅で行うことも可能)で排卵日を予測し、適切な性交を指導し妊娠を促します。
次の6カ月でクロミフェン療法、ドパミンアゴニスト療法、HCG療法(排卵直前に投与し排卵を促したり、あるいは排卵後に投与し黄体を刺激する治療)などを行います。
この方法でも妊娠しない場合、さらに半年から1年かけて排卵誘発剤であるHMG-HCG療法を施行し、同時に適宜、人工授精(子宮内へ直接精子を注入する)を施行します。
このような治療で妊娠に至らない場合は、次の手段としてGIFTあるいは体外受精を施行します。このような手順は欧米でも採用されています。もちろん各 検査の段階で異常が認められた場合には、それぞれの不妊原因となり得る異常を是正し、個別的な治療をするのは当然のことです。例えば、卵管通過障害に対す る卵管形成術、子宮筋腫、子宮内膜症に対する手術や薬物療法などです。